雪がほとんど降らない地域に住んでいる場合、コストや装着の億劫さなどを理由にスタッドレスタイヤ・タイヤチェーンの購入を避けている方もいるでしょう。
スタッドレスタイヤ・タイヤチェーンを持っていない場合、雪道は夏タイヤで走行することになります。果たして、夏タイヤで雪道を走ることは可能なのでしょうか。
当記事では、夏タイヤで雪道を走れるか否かや、夏タイヤで雪道を走行することのリスク、夏タイヤで走行しているときに雪が降ってきた際の対処法などについて解説します。
夏タイヤで雪道を走りたいと考えている人は、ぜひお読みください。
夏タイヤ(サマータイヤ)で雪道は走れるか?
結論から言うと、夏タイヤで雪道を走ることは危険です。走ること自体は可能なものの、逆に止まることができなくなり、危険であるためです。
ブレーキを踏んでもしっかりと止まれなくなることがあるため、重大な事故につながる可能性があります。
以前、JAFが行ったテストによると、圧雪路の場合、夏タイヤはスタッドレスタイヤのおよそ1.7倍制動距離が長くなったというデータが出ています。
また、氷盤路であればその差はおよそ1.8倍ともなります。
制動距離に大きな差が出ることからも、夏タイヤで冬の路面を走ることの危険性がお分かりいただけるのではないでしょうか。
また雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士の荒木健太郎氏のツイートも参考になります。
夏タイヤでの雪道の走行は非常に危険であると警鐘を鳴らしています。
雪道や凍結した道路では、夏タイヤでの車の運転は極めて危険です。冬タイヤやチェーンを装着していても絶対に安全というわけではありません。坂道やカーブ、交差点、アイスバーンなどで事故が多発しています。自分は大丈夫という考えは捨てて、安全第一でお願いします。 pic.twitter.com/Mkc0Q4jEFE
— 荒木健太郎 (@arakencloud) January 6, 2022
特に以下のような場所はとりわけ事故が起きやすいため、注意が必要です。
・交差点
・アイスバーン
・坂道
・カーブ
・トンネルの出口
夏タイヤでは短い距離でスムーズに止まるのが難しいため、雪道や凍った道は必ず対策を行ったタイヤで走行するようにしてください。
また、スタッドレスタイヤ・タイヤチェーンを装着しても絶対に安心というわけではないため、常に細心の注意を払って走行するようにしましょう。
夏タイヤで雪道を走ると法律違反になったり、強制撤去されることも
雪が積もっていたり凍結していたりする路面を、滑り止め措置を取らずに走行するのは法令違反となっています。道路交通法第71条に基づいて、5,000〜7,000円程度の反則金を取られることになるため、十分に注意しましょう。
なお、違反となる基準は都道府県によっても異なります。車を運転される方は、一度住んでいる都道府県の違反基準について確認しておくことをおすすめします。
たとえば北海道の場合、違反基準は以下のようになっています。
北海道:道路交通法施行細則 第12条第2号
(引用:https://www.jatma.or.jp/tyre_user/winterroaddrivingandtyres.html)
積雪し、又は凍結している道路において、自動車若しくは原動機付自転車を運転するときは、スノータイヤを全車輪に装着し、又はタイヤ・チェーンを取り付ける等滑り止めの措置を講ずること。
対して埼玉県の場合、以下のような違反基準となっています。
埼玉県:埼玉県道路交通法施行細則 第10条第9号
積雪又は凍結によりすべるおそれがあると認められる道路において、自動車(大型自動二輪車及び普通自動二輪車を除く。)を運転するときは、駆動輪にタイヤチエーンを取り付ける等すべり止めの措置を講ずること。
(引用:https://www.jatma.or.jp/tyre_user/winterroaddrivingandtyres.html)
埼玉県の場合、北海道とは違って大型自動二輪車と普通自動二輪車が対象から外れていることがわかります。
雪道を車で走ると違反になるという点は、沖縄県を除くすべての都道府県で共通しています。しかし上記のように、都道府県ごとに違反となる基準が若干異なっているケースがあります。
ちなみに、反則金は車の種類によって異なります。具体的な金額の違いは、以下の通りです。
・原付:5,000円
・二輪車:6,000円
・普通車:6,000円
・大型車:7,000円
仕事や趣味でよく長距離のドライブに出かけるという方は、自分の住む都道府県だけでなく、目的地の都道府県の違反基準についても確認しておくと良いでしょう。
都道府県ごとの法令の違いについては、一般社団法人日本自動車タイヤ協会のHPからご確認できます。
また、雪道で車が動けなくなって除雪の妨げとなった場合、災害対策基本法に基づいて車が強制撤去されるケースもあります。過去の事例では、大雪の中で運転手不在の車が強制的に撤去されたことがありました。
トラブルに巻き込まれることがないよう、必ず滑り止めの対策を行ってドライブするようにしましょう。
急に雪が降ってきた時の対処法
「夏タイヤで道路を走っているときに、いきなり雪が降り始めた」というシーンに遭遇したことのある方は少なくないでしょう。突然の雪に見舞われた場合、どのように対応すれば良いかは迷いどころです。
判断を間違えると、重大な事故や法令違反につながる可能性もあるため、雪道を走る前に対処法についてあらかじめチェックしておきましょう。
交通量の多い幹線道路を選ぶ
雪の際は、交通量の多い幹線道路を選んで走るようにしましょう。たくさんの車が走っている道路は、車によって雪が潰されるため、あまり雪が深く積もりません。またたくさんの車が通っているため、滑りにくくなっている点もポイントです。
万が一その場で動けなくなった場合、車通りの多い場所であれば他の車に助けを求めることもできるでしょう。
速度を落とし、わだちをトレースする
わだちとは、ほかの車が通った跡のことを指します。特にあまり雪が積もっていない段階の場合、わだちの部分は雪がない状態となっているケースがほとんどです。わだちをなぞるように走って行くことで、滑るリスクを抑えることができるでしょう。
アクセル・ブレーキ・ハンドル操作を慎重にする
急ブレーキや急発進、急加速、急ハンドルなどの操作を行うと、事故を引き起こす可能性が増幅します。アクセル・ブレーキ・ハンドルすべての操作を、いつも以上に丁寧に行うようにしましょう。速度は決して出しすぎず、慎重に進むようにしてください。
坂道はいつでも停止できる速度で走行する
雪が積もっている坂道は、とりわけ注意が必要です。坂道は大きな事故が起こりやすい場所であるため、わずかな坂であっても油断せず、いつでも停止できるようなゆっくりとした速度で走るようにしましょう。
タイヤの空気圧を抜いて低めにする
タイヤの空気を抜くと、地面と接する面積が広くなるため、グリップ力が上昇する効果が期待できます。ただし過度に空気を抜くと、タイヤがダメージを受ける可能性があるため、適度に抜くことを心がけましょう。
雪道を走り終わったら、タイヤを傷つけないようすぐに空気を入れるようにしてください。
ABS付きの車でもタイヤがロック可能性に注意する
ABSとは、「アンチロック・ブレーキ・システム」のことです。
ABS付きの車は、強くブレーキを踏んでもタイヤがロックされず、ハンドル操作ができます。危険な状態に陥った際、ブレーキを踏んで速度を落としながら障害物を回避することができるため、大きな事故につながりにくくなります。
ABSを解除しなければ、車は止まることができません。したがってABS付きの車でも、停止する最後の最後に突然ABSが解除され、タイヤがロックされることがあるのです。
「ABSが搭載されているから大丈夫」と過信しすぎず、ブレーキの際は細心の注意を払うようにしましょう。
雪道を走る場合はタイヤチェーンやスタッドレスを装着しよう
雪道走行の安全性を高めるためには、タイヤの滑り止め対策が欠かせません。
主な滑り止めの対策アイテムとしては、タイヤチェーンとスタッドレスタイヤが挙げられます。
以下では、タイヤチェーンとスタッドレスタイヤそれぞれのメリットとデメリットについて解説します。
タイヤチェーンとスタッドレスタイヤは、一長一短のアイテムです。それぞれのメリットとデメリットを比較しつつ、自分にはどちらが合っているのかを検討してみましょう。
スタッドレスタイヤ
スタッドレスタイヤとは、凍った地面や雪が降り積もった地面を安全に走れるよう設計されたタイヤのことです。
深い溝が刻まれていたり、「サイプ」と呼ばれる細かな切れ込みが入っていたりと、夏タイヤにはないさまざまな工夫が施されています。
スタッドレスタイヤのメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
春まで使用できる・乗り心地に大きな悪影響がない | グリップ性能はやや低くなる・お金がかかりやすい |
タイヤチェーンの場合、路面の状況によっては冬であっても一時的な取り外しを求められることがあります。一方でスタッドレスタイヤの場合、冬の間であれば取り外す必要もなくずっと使い続けることができます。
タイヤチェーンのように何度も取り外しを行うのは億劫に感じる方も少なくないでしょう。特に冬場の場合、寒い屋外で付け外しを行うため、身体的なストレスもかかります。
一度つけたら冬の間ずっとつけたままにできる点は、大きなメリットだと言えます。
さらにスタッドレスタイヤは、乗り心地に大きな悪影響を及ぼすことがありません。
タイヤチェーンの場合、チェーンが擦れる音や感覚を常に感じながら走行することになるため、人によっては大きなストレスを感じるでしょう。
一方でスタッドレスタイヤは、夏タイヤに比べると速度や走行感覚に多少の差はあるものの、タイヤチェーンに比べればそこまで大きな影響は出ません。
スタッドレスタイヤは、タイヤチェーンに比べるとややグリップの性能が劣ります。安心感を第一に優先したいという方には、タイヤチェーンの方が向いているかもしれません。
さらに、スタッドレスタイヤはお金がかかりやすいという弱みも持っています。
夏タイヤをスタッドレスタイヤに交換する場合、タイヤ・ホイールを1セット分購入しなければなりません。費用は50,000円近くにまでおよぶこともあります。
さらにスタッドレスタイヤは、交換時期が早まりやすいという点にも注意が必要です。
スリップを防ぐために高い摩擦力を持っているスタッドレスタイヤですが、摩擦力が高い分抵抗も大きいため、結果的にすり減る速度が夏タイヤよりも早くなる傾向にあります。
夏タイヤに比べて早く寿命が来るため、交換の回数が増えて購入費用がかかりやすいという特徴を持っています。
タイヤチェーン
タイヤチェーンとは、タイヤに巻きつけて雪道のスリップ等を防ぐチェーンのことです。
タイヤチェーンのメリットとデメリットは次の通りです。
メリット | デメリット |
比較的安価・グリップ性能が高い | 速度が出しにくい・雪のない路面を走る際は外す必要がある |
安いものであれば3,000円ほどで購入できるため、リーズナブルで手が届きやすいアイテムだと言えるでしょう。
さらに、グリップ性能はスタッドレスタイヤよりも高いため、より安心して走ることができます。
タイヤチェーンは制限速度が定められており、規定の速度を越えて走ると大きな事故につながる可能性があります。
特に高速道路を走る場合、タイヤチェーンを付けてゆっくりと走っていると渋滞の原因になってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
さらに、タイヤチェーンをつけた状態で雪が積もっていない道を走ると、チェーンが切れて事故が起こったり、ホイールにダメージを負ったりするリスクがあります。したがって距離の長いトンネルでは、チェーンを外すよう求められるケースもあります。
過去にTwitter上でも、「東北中央道のトンネルで金属チェーンを外すよう指示を受けたことがある」という声が投稿されていました。
東北中央道の栗子トンネルは金属チェーン使用禁止。走行中に切れて事故を誘発する恐れがあるため。
— k1102 (@k1102) December 20, 2020
非金属チェーン製品はOK?♀️
当ケースの場合、チェーンを外してからトンネルに入り、トンネルを出たらまたチェーンをつけるという作業を行わねばなりません。チェーンの付け外しという億劫な作業が発生するという点は、チェーンの大きなデメリットだといえるでしょう。
まとめ:サマータイヤで雪道を走るのは危ない
最後に内容をおさらいします。
サマータイヤで雪道を走ると、重大な事故を引き起こす可能性があります。さらに夏タイヤの車で走っていると、法令違反となったり、強制撤去の対象となったりするケースもあります。
安心感を持って安全に雪道を走行するためにも、雪道のスリップ対策をしっかりと行って走ることをおすすめします。
代表的な雪道の滑り止めアイテムとしては、タイヤチェーンとスタッドレスタイヤが挙げられます。
それぞれ一長一短の特徴を持っているため、それぞれのメリットとデメリットを比較して、自分に合った方を選択するようにしましょう。
もしも夏タイヤで走行中に雪が降ってきた場合は、細心の注意を払って走行してください。交通量の多い道路を選んで走ったり、タイヤの空気を抜いて走ったりと、今回紹介した対処法を実践するのもおすすめです。